テレワークを導入し円滑に運用するためには、人事制度の策定、テレワークツールの導入、運用ルールの策定と周知などの多角的なアプローチが必要であり、どれも欠かすことができません。
この記事では、特にテレワークツールの導入について、「そもそもツールとは何か?」、検討するべき5つのポイント(課題、コスト、セキュリティ、他ツールとの関係)についてまとめました。
Contents
テレワークとは
テレワークとは、時間や場所にとらわれない働き方のことです。リモートワークという言い方をする企業・団体もあります。
情報通信技術(ICT : Internet Communication Technology)の発展によりインターネットを介して地理的に遠くの人と働くことが可能になり、オフィスの外(自宅やカフェ、サテライトオフィスなど)で働いたり、国外の仲間と働いたり、従来の働き方と違う様々な就業形態が可能になりつつあります。
「ツール」とは?ソフトウェア・アプリ・サービスとの違いは?
まずは現在よく耳にする、ソフトウェア、アプリ、サービスそしてツールという言葉の違いについて確認しましょう。
PC上にインストールされて動作するプログラムはソフトウェアまたはアプリケーション(Application)と呼ばれ、スマホやタブレットなどのモバイル端末上で動作するプログラムはアプリ(英語ではApp.、Applicationの省略形)と呼ばれます。しかし、近年ではPC用のプログラムもソフトウェアという言葉の替わりにアプリと呼称することが増えてきました。[例:iPhoneアプリ、Windowsアプリ(Windows 8以降)など]
サービス(Service)は、Windowsが実行するプログラムの呼称でもありますが、オンラインサービス、クラウドサービス(ソフトウェアがベンダーの管理するサーバ上で実行され、ユーザはブラウザや専用ソフトウェア、アプリから機能を利用する)を指す言葉としても利用されます。サービスという言葉の通り、多くの場合は機能の提供に加えてデータ管理やサポートまでを含みます。[例:Dropbox-クラウドストレージサービス]
ツール(Tool)は、目的を達成するための道具、つまり業務を遂行するのに利用できるソフトウェア・アプリ・サービス全てを含んだ呼称となります。[例:テレワークツールなど]
それでは、テレワークツールの導入において何を検討するべきか、一つ一つ見ていきましょう。
1.ツールによって解決したい課題・要求を検討する
まず、どのようなツールを導入するのか決定する前に、解決したい課題をはっきりさせて要求をまとめる必要があります。このとき、社員の立場によって、異なる要求を持っていることを忘れてはいけません。
今までオフィスで働いていた部下がテレワーク制度を利用することになりました。そこで、タスクを管理できるようなツールを導入することになりました。このとき、上司・部下がやりたいことは一体なんでしょうか?
テレワーカーを管理する上司は、今まで目の前にいた部下の姿が見えなくなるため、部下の仕事ぶりが気になります。タスク管理ツールを使って部下全員のタスクの進捗状況を把握したいと共に、テレワークをしている部下の就労実態(働いているか・サボっているか)も把握したいと考えます。
そのため、上司は部下に対して1日に何度も進捗状況をアップデートすることを期待してしまいます。
一方、テレワーカーである部下は、このツールを使って自身の持つタスクの進捗状況を記録・把握したり、上司を含めたチームの人々と共有したいと考えています。しかし、その一方で1日に何度も進捗状況をアップデートすることは煩雑ですし、もっとリラックスして集中して働きたいと考えています。
このように上司・部下・他部署の人間など、立場によって要求は異なることが自然です。そのため、立場・課題に沿ったツール選定をする必要があります。
しかしながら、課題一つ一つに対しツールを選定すると導入するツールが多くなり、一つのツールで多くの課題を解決しようとすると運用ルールが煩雑になってしまいます。会社全体として何を重要課題とし解決するかはっきりさせることはとても重要になります。
上記のケースでは、2パターンの導入戦略が考えられます。どちらが良いかとは一概には言えず、その企業の組織マネジメントの方針・戦略によって決定する必要があります。
- タスク管理ツールと、部下の就労実態の把握するためのPCのログイン状況監視などのツールの2つのツールを導入する
- タスク管理ツールのみを導入し、部下に対しては煩雑なアップデートを求めない
2.コストを検討する
期待する効果に対して支払えるコストの検討をしましょう。
コストには、目に見えるコスト(ソフトウェアやサービス自体の導入コスト、ツールの利用料)と目に見えづらいコスト(運用・管理コスト、社員のトレーニングコスト等)があります。
導入コスト
ツールの導入に伴い発生する初期コストです。ツールを自社で運用するのはオンプレミス型と呼ばれ、自社でサーバを立ち上げホストとして機能提供を行うため、サーバの設置、設定、テスト等様々な業務が必要となります。クラウドサービスを利用する場合は初期コストが比較的小さく、利用設定のみで運用がスタートできます。
ツールの使用料
テレワークツールに限りませんが、ツールの使用料には現在主に3つの形式が利用されます。適切な運用コスト把握のため、以下を確認しておくと良いでしょう。
サブスクリプション
クラウドサービスに多い形式で、利用する社員が多い場合には高額になることがあります。
一部機能を無期限・無料にて利用可能で、高度な機能を利用したり利用人数を増やす場合に課金が必要となります。通常、無料プランと複数の有料プランが用意され、ユーザ一人当たり幾らという料金設定がされています。稀に、ある機能をホストするユーザだけが課金すればその他のクライアントユーザも機能を利用できるという場合もあります。
利用する社員が多い場合には高額になることがありますが、ユーザ数の変更が簡単に行える・常に最新のサービスを利用可能というメリットがあります。使い方の工夫によっては無料枠内でも十分に利用可能です。しかし、プラン改定で機能制限が増えると再度のシステム移行や課金を考える必要があります。
ライセンス
従来多かった課金方式で、必要個数のライセンスを予め購入する必要があります。
ソフトウェアを購入するとダウンロード配信又はDVDやUSBに入れて配送されます。同時に、ライセンスキーと呼ばれる文字や数字の羅列が発行され、インストールしたソフトウェアに入力することで利用できるようになります。通常1年辺り、1ユーザまたは1PC辺り幾らという料金設定がされます。機能制限又は期間制限をかけた無料トライアル版が提供されている場合もあります。ライセンス中は最新版を無料で提供してくれる場合もありますが、多くの場合は特定のバージョンに対してライセンスを発行し、別途有料オプションで最新版の提供が行われます。バージョンアップの購入に対して割引が適用されることもよくあります。
利用ライセンス数を予め固定で購入する必要があるため、誰がいつソフトウェアの利用をするか計画をする必要があります。
パッケージソフトウェア
昔ながらの方式で、シンプルであるものの管理が面倒でもあります。
ソフトウェアを購入するとダウンロード配信またはDVDやUSBに入れて配送されます。シリアルキーと呼ばれる文字や数字の羅列をインストールしたソフトウェアに入力するとソフトウェアの利用ができます。パッケージの値段が決まっており、一度支払いをするとずっと使い続けることができます。機能制限又は期間制限をかけた無料トライアル版が提供されている場合もあります。最新版は別途購入する必要があります。
バージョンが変わるごとにパッケージを購入する場合にはどのようにそれを管理するか、プロジェクトで購入すると誰がそのソフトウェアを所有しているか管理が難しく、有効利用が難しくなります。
運用・管理コスト
オンプレミス型で自社運用する場合には、サーバメンテナンス、データバックアップ、フォローアップ等様々な業務が継続的に発生します。クラウドサービスでは、利用料以外のコストは基本的にかかりませんが、利用にあたっての設定やユーザ管理等は必要となります。
トレーニングコスト
社員にトレーニングを行うためのコスト(時間・人員確保)です。テレワークツールについて社員にトレーニングを行うことには、2つの意味があります。
1つ目は、テレワークツールの扱い方と運用方法に関するトレーニングです。せっかく有益なツールを導入しても、使い方がわからない・どのように利用したら良いかわからないという状況ではツールの効果が発揮されません。また、テレワークをする社員がツール使えてもその上司がそのツール使えないと、意味をなさないことも多くあります。
2つ目は、社員の意識に対するトレーニングです。人は急激な変化に対して不安を感じます。新しいツールを導入することで現在行っている業務のプロセスに影響があるのではないかと不安があると、社員が新しいツールを積極的に利用しないことが考えられます。そのため、テレワークツールを定着させるためには、ある程度のトップダウンによる強制と、社員に対する適切な意識改善を促すトレーニングを行う必要があります。
これらのトレーニングは、会社全体で行うものに加え、チーム単位で行うことが効果的です。いつも業務を共に行っている上司・部下・同僚と、適切な使い方や個別に発生する問題について知識を共有をする機会を持つことがツール導入において重要です。そのための計画とそこにかかるコストも検討しておくべきでしょう。
3.セキュリティの検討
テレワークにおいて、多くの企業がセキュリティを重要課題としてあげています。顧客データや企業秘密を扱う業務の場合、そのレベルに応じて利用すべきツールが異なります。
この記事では、セキュリティを確保するためのツールにおける概念を簡単にまとめていますが、セキュリティの詳細については総務省がテレワークにおけるセキュリティガイドラインを発表しているので、確認してみましょう。
セキュリティ対策ツールの概念
ここでは、テレワークで使われるセキュリティ対策ツールの概念にについて、知っておくべきポイントをご紹介します。
シンクライアント(Thin client)
クライアントのPCでは最低限の処理のみ行う方式です。クライアント側では、サーバの画面を表示し操作する処理のみ行い、実際の処理はサーバ上で行われます。一切のデータをクライアント側に転送しないため、PC紛失によるデータ流出のリスクや重いデータの転送問題を回避できます。また、専用のソフトウェアを利用することで通信環境の強力な暗号化やスナップショット撮影を制限するといったセキュリティ確保をすることができます。
作業における遅延はネットワーク環境、ユーザ数とサーバのパフォーマンスに依存しますが、多少のラグを感じる場合があるようです。
ハードディスク暗号化(Encryption)
通常、PC起動時にパスワードを聞かれるように設定しても、データは暗号化されずにハードディスクへ記録されます。ハードディスクの暗号化を行うことで、PCの盗難が発生した際も容易にデータの吸い出しができなくなります。
常にデータの暗号化・複合化が発生するため、PCの性能や扱うデータの種類によっては遅いと感じる場合があるようです。
顔認証PCセキュリティ
一部のセキュリティツールでは、顔認証による覗き込み防止機能を提供しています。作業中に後ろから人が覗き込んだ場合、カメラによる認証で自動的にロックがかかる仕組みです。サテライトオフィス・コワーキングスペースで働く場合や、自宅において家族にも見せられない業務がある場合には有効でしょう。
4.ツールの入れ替え・他ツールとの連携の検討
同じ用途・似た用途のツールをすでに導入している場合にはツールの入れ替えについて、新規にツールを導入する場合には他のツールとの連携について、検討する必要があります。以下、確認しておきたい事項をまとめました。
他ツールからの入れ替え
データ移行が可能かの確認
データ移行は、すでに例えばSkypeやSlackなどのチャットツールを変更する場合には、過去の会話履歴のデータを新しいツールへ移行しないこともあります。しかし、DropboxやOneDriveなどのストレージツールを変更する場合、多くのデータは移行したいという要求が出ます。データの所有者に移行を任せる場合には所有者が不明となっている古いデータの取り扱いに注意しなければいけません。どのようなツールであっても、移行元と先においてエクスポート・インポート機能の有無とその方式
権限の再設定
データ自体のコピーが完了しても、多くの場合権限の設定まで移行できません。各データに正しい権限を設定するには必要なレベル(ファイル単位、チーム単位、フォルダ単位等)での権限設定が可能か予め確認し、手動での権限設定を計画する必要があります。
導入済みツールとの連携
例えば、社員管理にLDAP等を用いている会社が新たにチャットツールを導入する場合、又はSkypeから他のチャットツールへ移行する場合、新しいチャットツールがLDAPと連携可能かを確認しておく必要があります。LDAPと連携可能なチャットツールを選択するか、連携をせずに手動でメンテナンスをする(例えば全ユーザを登録し、入れ替わるたびに変更する)かなど、長期的な管理に関する計画を立てる必要があります。
チャットツールに限らず、近年ではツールがプラグインと呼ばれる拡張機能をサポートしていることも多く、様々なニーズに対応した利用の仕方が可能となっています。その反面、理想の運用にあった形にできるか調べるのが難しくなってきています。
5.導入効果の測定
また、導入後には、選択したツールが課題を解決したことを確認・評価する手段が必要となります。アンケートを用いた主観的な評価も一つの方法ではありますが、ツール導入の効果を計るためにはより定量的な評価方法を考えることで上層部の理解を得やすくなります。
例えば、チャットツールを導入することを考えます。会社には「社員同士のコミュニケーションが少なく、必要な情報が伝わりづらい」という課題があったとします。チャットツールは短い文章でもコミュニケーションされることが期待でき、課題を解決できると期待できます。課題が解決されたか定量的に確認するため、社員同士のコミュニケーション回数や頻度、ある情報が誰にいつ届いたかなどを測定・期待値の設定をし、現行のツール(例えばメール)とチャットツールにおける変化を数値化します。コミュニケーションの頻度が多くなり、情報が必要な人へ素早く伝達されることが確認できれば、チャットツールが有用であると確認できます。
さまざまなテレワークツール
プレゼンス機能を使えるツール
テレワークで働いていると、相手が何をしているのか分からず、話しかけて良いタイミングかどうかわからないことがあります。
そのような時は、相手のプレゼンス(在席)状況を教えてくれる「プレゼンス機能」が便利です。
テレワーク向けテキストチャットツール
テレワークではオンラインでのコミュニケーションが基本となりますが、そんな時に全てのやりとりをメールで行っていると膨大な量のメールに追われることになってしまいます。
テレワークで使える、ビジネス向けのチャットツールはこちらをご覧ください。
テレワーク向けweb会議・テレビ会議ツール
テレワークでも、普段の会議と同じ様に複数人で集まって議論することができます。
ビジネス向けのweb会議・テレビ会議ツールはこちらをご覧ください。
テレワーク向けバーチャルオフィスツール
チャットやWeb会議ツールだけでは、オフィスにおける普段のコミュニケーションを再現することは困難です。
同じオフィスで働いているかのような環境を用意するためには、ビジネス向けのバーチャルオフィスツール導入を検討しましょう。
社内データへのアクセス・管理
テレワークにおいて、社内のデータにネットワーク経由で接続するには大きく分けると3つの方法があります。
クラウド上でデータを共有することも有効です。
モバイルワーク向けセキュリティツール
スマートフォンやタブレットを利用して外出先で仕事を行うモバイルワークでは、在宅勤務やサテライトオフィス勤務以上に安全対策が必要です。
ここでは、セキュアコンテナとセキュアブラウザについてご紹介します。
まとめ
この記事では、テレワークツールを導入する際に検討すべきポイントについてまとめました。
- テレワークツールの用途について検討
- 様々なコスト(導入コスト、ツール使用料、運用・管理コスト、トレーニングコスト)
- セキュリティの検討
- 他のツールからの入れ替え・他のツールとの連携