近年、晩婚化に伴って出産も高齢化しており、第一子出生時の母親の平均年齢は2017年時点で30.7歳(1985年では26.7歳)です。
30歳というと、大学学部卒の人で勤続8年、大学院卒の人で勤続6年の時点で第一子を授かっていることになります。
入社6~8年といえば、社会人としての経験もつみ、体力のあるいわゆる働き盛り世代。企業としては、どんどん活躍してもらいたい世代といえるでしょう。
一方で、第1子出産前後の女性の継続就業率は2016年時点で53.1%となっており、約半数の女性が出産の前後で一度仕事を辞めていることになります。
そんな中、子育て世代の離職を防ぐために、テレワークなどの柔軟な働き方を導入する企業も出てきました。
シゴトバでは、テレワーク導入を検討されている企業の担当者の方々向けに、テレワークの導入が子育て世代に実際役立つのかについてシリーズでご紹介します。
この記事では、妊娠中の女性社員に対して、テレワークをどう活用できるかについてご紹介します。
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母性健康管理に対する企業の義務
まず、企業は妊娠した女性社員についていくつかの義務を負っています。男女雇用機会均等法により、企業は以下のように義務付けられています。
第十二条 事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、その雇用する女性労働者が母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)の規定による保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間を確保することができるようにしなければならない。第十三条 事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない。男女雇用機会均等法
簡単に言うと、企業には以下の項目を守る義務があります。
- 女性社員が妊婦検診を受けられるように時間を確保する
- 妊婦検診において保険指導などがあった場合(母性健康管理指導事項連絡カードなど)、勤務時間の変更や勤務の軽減など必要な措置を講じなければならない
- 母性健康管理指導事項連絡カード(以下「母健連絡カード」)とは、仕事を持つ妊産婦が医師等から通勤緩和や休憩などの指導を受けた場合にその指導内容が事業主の方に的確に伝えられるようにするために利用するものです。妊婦の主治医等は、妊娠中または出産後の働く女性に対して、健康診査等の結果、通勤緩和や勤務時間短縮等の措置が必要であると認められる程度の指導事項がある場合、必要な事項を記入して渡します。
- 妊娠中又は出産後の働く女性は、事業主にこの「母健連絡カード」を提出します。
- 事業主は「母健連絡カード」の記入事項に従って通勤緩和や勤務時間短縮等の措置を講じます。
母性健康管理
母健連絡カードなどで医師から指導を受けたと女性社員から報告があった場合、事業者は次のような措置を講じる必要があります。
妊娠中の通勤緩和
交通機関の混雑により、つわりの悪化や流・早産等につながるおそれがあります。通勤緩和の指導を受けたと妊娠中の女性労働者から申出があった場合には、事業主は対策措置を講じる必要があります。
妊娠中の休憩に関する措置
妊娠中の女性はつわりなどの体調不良を起こしやすく、また、睡眠も浅くなるために妊娠前と比べて多くの休憩を必要とします。また、空腹によりつわりが悪化する「食べづわり」になる人も多く存在します。休憩に関する措置について指導を受けたと妊娠中の女性労働者から申出があった場合には、事業主は対策措置を講じる必要があります。
妊娠中の症状等に対応する措置(作業の制限や作業環境の変更等)
重量物を取り扱うなど負担の大きい作業に従事している妊娠中又の女性労働者がいた場合、デスクワークなどの負荷の軽減された作業へ転換をすることにより、負担の軽減を行うことが望まれます。
母性健康管理としてのテレワーク
上述したように、企業は妊娠中の女性社員の母性健康管理に対する義務がありますが、その具体的な措置としてテレワークを活用されてみてはいかがでしょうか。
テレワークとは?
テレワークとは、時間や場所にとらわれない働き方のことです。リモートワークという言い方をする企業・団体もあります。
情報通信技術(ICT : Internet Communication Technology)の発展によりインターネットを介して地理的に遠くの人と働くことが可能になり、オフィスではない場所(自宅やカフェ、サテライトオフィスなど)で働いたり、国外の仲間と働いたり、従来の働き方と違う様々な就業形態が可能になりつつあります。
妊婦検診とテレワーク
企業は妊娠した女性社員がその妊娠週数に応じた妊婦検診を受ける時間を会社の休日以外に確保しなければなりません。妊婦検診を受けるために有給休暇の使用を促すことは違法です。
妊娠週数 | 確保すべき受信回数 |
---|---|
0~23週 | 4週間に1回 |
24~35週 | 2週間に1回 |
36~出産まで | 1週間に1回 |
※時間単位(半日単位か、時間単位か)や有給・無給かについては事業者が決めることができます。
一般的には妊婦検診で自宅近辺の産婦人科を利用する人が多いですが、24週以降ともなると2週に1度は通院しなければなりません。
さらに、産婦人科は予約をしていても長時間待たされる病院がとても多いです。
そこで、時間単位の妊婦検診休日とテレワーク制度を組み合わせてはいかがでしょうか。
例えば、10時からの検診があった場合、8:30から9:30まで自宅でテレワークし、9:30~11:00に妊婦休業時間を取得、11:00以降また自宅でテレワークするといった具合です。
テレワークが認められると、無駄な移動時間を省くことができ、その分を業務時間に充てることができるため企業・社員双方にとってメリットが大きいといえます。
この際、フレックス制度やスーパーフレックス制度と併用できるとさらに使いやすいものになります。
妊娠中の通勤緩和としてのテレワーク
妊娠初期のつわり、妊娠後期の大きくなったお腹を考えると、通勤電車は妊娠した女性社員にとって大きな負担です。
あまりに混雑した社内は物理的に危険ですし、お腹が大きくなってくるとバランスを崩しやすく、立ち続けることが困難となります。
万が一、通勤中に事故やケガがあったら労災案件となってしまいます。フレックス勤務でラッシュアワーを避けることもできますが、テレワークを導入することで通勤する必要がないことの方がリスクマネジメントとしてはより有効ではないでしょうか。
出産直前にテレワーク
出産予定日から数えて6週間前(双子妊娠の場合は14週前)になると、妊娠した女性社員は産前休業に入る権利があります。
女性社員からの請求があった場合には、企業は女性が産前休業に入ることを拒否してはなりません。
逆に、女性社員が産前ギリギリまで働きたい場合は、企業は女性社員に就労させても構いません。
そのような申し出は企業としては有難いところではありますが、臨月ともなるとお腹はとても大きく、通勤におけるリスクはますます大きくなります。
そこで、出産直前まで就労を希望する女性社員に対してはテレワークを提案してはいかがでしょうか。ただし、これは女性社員自身から就労を希望した場合です。
企業側から「テレワークができるからギリギリまで働け」と命令ことはできませんのでご注意を。
医療の発達した現代においても、妊娠は命がけであり、何が起こるかわかりません。昨日まで問題なく出社していても、今日突然切迫早産・切迫流産などで緊急入院・絶対安静となってしまうかもしれません。そうなると、テレワークですら働ける状態ではなくなります。このような事態が起こる可能性があることを企業は認識し、社員の妊娠が分かったら早めに引継ぎを行っておくことが重要です。
まとめ
今回の記事では、妊娠した女性社員に対してどのようにテレワーク制度を活用することができるのかについてご紹介しました。日本には、妊産婦の労働者を守るための法律が存在しており、企業にはそれを実践することが求められます。フレックス勤務・有給の時間単位取得など様々な方法が考えられますが、テレワークもオプションのひとつとなることをご紹介しました。今後も、シゴトバでは社員のライフステージにおいてテレワークをどのように活用できるのか、ご紹介していきたいと思います。